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II 図書 2.労働問題関係図書

(1)労働問題・労働事情(和書)

 大原研究所所蔵の労働問題図書(和書〉の全容は,労働運動史・争議史,年報や労働統計書,旧協調会文庫などと総合して,はじめて明らかとなる。ここでは他項で紹介されている労働運動史・争議史関係図書,年鑑や年報および統計書,協調会文庫に含まれている労働関係図書以外のものについて紹介することにしたい。

 労働問題・労働事情関係の所蔵冊数をみると,現在,約11,500冊である。労働運動史・争議史関係の図書2,500冊(日本語による外国労働運動史文献を含む)を合わせると,約14,000冊となる。それは,もちろん戦前と戦後にまたがっているが,所蔵分量としては圧倒的に戦後刊行書が多い。この点,協調会文庫とは大きく異なっている。とはいえ,戦前の図書で貴重なものも多い。

 a 労働問題一般――1,450冊 ここには,社会政策,社会保障,労働問題に関する図書も含まれ,大部分は戦後のものである。もっとも,堀江帰一『労働問題十論』(1918年),河田嗣郎『社会問題体系』全7巻(1925~33年)のような戦前図書も所蔵されている。また,鈴木文治『日本の労働問題』(1919年)は,「謹呈,赤松(克麿)学兄,1919年11月」という,著者の献辞入りである。

 労働問題一般では,最近ではとくに技術革新にともなう労働問題関係図書が増えている。また日本,アジア,ヨーロッパ,アメリカなど各地域,国々の労働事情に関する文献も,ここに含まれている。日本についていえば,地方自治体の刊行したそれぞれの地方の労働経済,労働事情にまで及んでいる。

 b 労働者状態,労働諸条件――4,000冊 労働者状態,労働諸条件とここでいう場合,雇用・失業問題など労働市場にかかわる分野,労働者生活や労働者教育・訓練に関する図書も含んでいる。そのうち,労働者状態史(含む労働史)に関するものは140冊であるが,なんらかの形で労働者生活や状態にふれた図書となると,きわめて分量が多くなる。たとえば,原哲夫『鐘紡罪悪史』(戦旗社,1930年)や岩下俊作『熔爐と共に四十年』(1943年)などは,労働の現場から労働実態をえぐったものとしてユニークである。もっと古くは,明治期の生活実態にふれた松原岩五郎『最暗黒の東京』(1893年)の原本(のち岩波文庫に入った)なども所蔵されている。

 だが,なんといっても多いのが,労働諸条件に関する文献である。戦時下における図書で例を挙げると,三好豊太郎『生産増強と厚生施設』(1943年),籠山京『勤労者休養問題の研究』(1944年)など,時局を前提としながらも,労働科学的見地から,戦時生産増強主義への批判を行った文献もある。また,労働災害・職業病,労働衛生に関するものだけを見ても300冊ある。そのなかには,風早八十二『日本の労働災害』(1948年)のような戦後初期のものもある。

 なお,大原研究所の図書分類では,生活協同組合など消費者運動関係の図書もここに含まれるが,冊数にして290冊である。たとえば,『全国労働金庫協会30年史』など労働金庫運動史や生活協同組合運動史などである。古いものでは,石川三四郎『消費組合之話』(1904年)があるが,これは高野岩三郎の寄贈によるものである。

 c 労働運動――1,300冊 この中には,労働組合に関する研究書も含まれる。また,冊数の計算上では,運動史関係の図書はひとまず除いてある。したがって,おもに労働運動に関して論じた文献ということになるが,ただ運動史と明確に一線を画するのはむずかしい。たとえば『高野実著作集』全5巻などは,この労働運動の中に含まれるものとして冊数を数えている。すでに翻刻本が出ているが,片山潜・西川光二郎『日本の労働運動』(1901年)の原本も所蔵されている。さらに,戦後初期,産別会議の初代議長であった聴濤克巳『労働組合論』(1948年),産別会議副議長であった亀田東伍『労働組合ノート』(1948年)などは,当時の組合指導者の運動認識を知る上でも貴重である。

 d 労使関係,労務管理――2,100冊 人事管理に関するもの350冊をはじめ,経営参加に関するものなども多い。また経営労務に関する文献では,経営労務担当者むけや労働者・組合むけの実務書も多く収集されている。たとえば,労務管理研究会編『最新労務管理総覧』(1957年)や森五郎責任編集『労務管理実務全書』(学陽書房,1975年)などはその一例である。戦時下のものでは,加野広之『労働配置』(1942年)などがある。なお,労働者教育に関しては,戦前の名著である大林宗嗣『セッツルメントの研究』(1926年)を挙げておこう。

 e 労働法,労働政策――2,580冊 労働法関係の文献も,比較的よく収集されている。とくに目立つのは,労働協約,就業規則に関するもの,労働判例に関する文献,地方労働委員会の刊行物などである。

 さらに,労働政策に関するものとしては,とくに国際労働基準,ILOに関する文献がよく収集されている。たとえば,飼手真吾・戸田菊男『ILO―国際労働機関』(日本労働協会,1960年)をはじめ,ILOに直接関連する図書も多い。これらは,『日本労働年鑑』で,国際労働基準,とくにILOの活動について長年記録してきたことともかかわって,図書収集でも力を入れたことが大きいと考えられる。

(早川征一郎)

『大原社会問題研究所雑誌』No.494・495(2000年1・2月)、創立80周年記念号より

更新日:2014年12月22日

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