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II 図書 4.特色ある図書

(6)サイン入り図書

 著者のサイン入りの図書は,1880年以前の刊行物を対象にした目録のなかに詳細に記述があるのでそれをたよりに拾ってみると約10冊ある。他に所有者のサインのあるものなどが20冊ばかりある。このなかでいくつかの図書について紹介してみよう。

 この中でもっとも有名なのは,いうまでもなくマルクスが友人のクーゲルマンにあてたサインのある『資本論』である。この本をめぐる詳細な解説は『資料室報』第204,206号に「大原研究所所蔵の資本論初版本とクーゲルマン文庫,ハースバハ文庫など(上下)」(宇佐美誠次郎)にある。それによれば,世界にある『資本論』の初版は100冊にも達しないが,その中でマルクスの署名のあるのは現存するものでは研究所所蔵のものしかない由であり,まことに貴重なものである。

 また,この他にマルクスの署名のあるのは「ルイ・ボナパルトのブリュメール18日」,エンゲルスの署名のあるのは『フランスにおける階級闘争』と『「フォルクスシュタート」からの国際問題』で,いずれもエドゥアール・ヴァイヤンに贈られている。ヴァイヤンはブランキストで1871年のパリコミューンに参加して議員となったが,その敗北後ロンドンに亡命し,第1インタナショナルの評議員となり,マルクス,エルゲルスと親交があった。

 クロポトキンのウィリアム・モリス宛ての献呈本もある。ケルムスコット印刷所の設立者として知られているモリスは社会民主連盟の執行部の一員でもあり,ハインドマンとともに『社会主義早わかり』を書いたこともあるが,ロシアから亡命してきたアナーキストのクロポトキンとも交際があった。

 ロバート・オーエンが献呈しているジョン・ウォーカーは彼のニューラナークの経営に加わった大金持で,マーガレット・コールによると「ニューラナークの会社を買占める2倍以上の十分な遺産を所有し,しかもそれに気付かないような男」であった。マルクスの娘のエレナもサインを残している。『資本論』の4版である。

 話題によくのぼる図書のなかにメアリ・ウルストンクラフトの『女権擁護論』がある。この本の見返しにアシャーストのジョルジュ・サンドヘの献呈のサインがある。さきにあげた目録ではこの贈呈の日付を1817年10月8日としていたので,かのジョルジュ・サンドにしては若すぎる上,彼女がこの筆名を使い出したのは1835年の作品からであるため疑問視されていた。アシャーストはイギリス人で,ジョルジュ・サンドの小説を1847年に翻訳しており,この時に交際があったことは明らかで,このサインを見直すと日付は1847年とよみとることができ,謎は解決した。アシャーストの詳細な経歴は不明であり,このときにだけ彼女の本を翻訳しているのも面白い。それにしても,ジョルジュ・サンドに贈られた本がどうして大原にたどり着いたのか,ちょっと興味のあることである。

 つぎに,1995年宇野家から寄贈された“Das Kapital. Bd. 1, Buch 1. 1867 ”(Marx, K.) には I. Takano. (高野岩三郎) 23, Ⅲ,1927. Wien のサインと Arbeiter Buchhandlung 購入 Schilling 120とも書かれている。宇野弘蔵の捺印が押されていることから,高野岩三郎氏が購入し,のちに宇野弘蔵氏に贈呈したのではないかと推察される。

(是枝洋・小島英恵・上田洋子)

『大原社会問題研究所雑誌』No.494・495(2000年1・2月)、創立80周年記念号より

更新日:2014年12月22日

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