II 図書 4.特色ある図書
(4)プロレタリア文学
戦後,ある時期まで,大原研究所は,プロレタリア文学の隠れた宝庫といわれた。研究所の図書・資料分類では日本文学(720)とは別にプロレタリア文学(710)の項目を立てているほどである。(現在和書330冊余がここにある。)そのようなこともあって,1956年,いちはやくプロレタリア文学関係の目録が作成された。『法政大学大原社会問題研究所プロレタリア文学関係所蔵文献目録』である。単行本のみ,276冊を発行順にならべた目録であるが,それは,『法政大学文学部紀要』(No2「日本文学篇」1956年3月)に,さきに公表され,ついで,大原研究所の『資料室報」(第91,93,94号,1963年9~12月)に掲載された。
そのとき,このコレクションの貴重さについて,目録作成に協力を惜しまなかった法政大学文学部の小田切秀雄氏が,こういっている。
「第一に昭和初年のプロレタリア文学運動関係の作品・評論・翻訳がかなり豊富にあること,とくに,これを集めたひとがプロレタリア文学に対して網羅的であろうとしたためか,ナップ(全日本無産者芸術団体協議会)系だけでなく,文戦系(労農芸術家連盟)の作品も多く集めていること」,「昭和初年のプロレタリア文学だけでなく,明治中期からの人民的・革命的な文学の流れに属するものが,戦前としてはよく集められていること,この点でまったく類の少ないコレクションになっている」(『資料室報』第91号,1963年9月)と。
このように,それは“宝庫”と呼ばれても過褒ではなかったのである。たとえば,そのなかから,平沢紫魂の『創作・労働問題』(1919年,小説・戯曲集)という本が,そのとき発見され,これが契機となって,今日,労働者演劇の創始者・平沢計七の業績が再評価されるにいたっている。
また,この方面の全集としては,戦後はじめての,『日本プロレタリア文学大系』(三一書房)全9巻が編集されるにあたっては,研究所の蔵書が何冊も底本として使われたのである。
前記目録を追って,さらに逐次刊行物等をも含めた,より広範な目録が,1980年に,法政大学大学院日本文学専攻西田研究室の手でつくられた。『法政大学所蔵プロレタリア文学関係文献目録』がそれである。これは,法政大学図書館蔵書をも含めた冊子目録であるが,その過半数以上が大原研究所蔵書であることは,一見して明らかであろう。
この10年の間に整理・公開された向坂文庫には,重複するものも多いが,これまで研究所が所蔵していなかった作品が散見される。一例を挙げれば,平林たい子の『悲しき愛情』(1935年)や黒島伝治の『橇』(1928年)等である。ただし,これらは日本文学(910)に一括して分類されている。
なお,演劇,運動史,他に数百冊の関連図書があることを付記しておこう。
(立花雄一・松尾純子)
『大原社会問題研究所雑誌』No.494・495(2000年1・2月)、創立80周年記念号より
更新日:2014年12月22日