II 図書 4.特色ある図書
(1)地方史・県史
まず,県史などの公的刊行物について述べよう。所蔵されている都道府県史や市史などは,当研究所の史料を都道府県史編纂担当者が利用し,その収録書を寄贈されたものが大部分で,系統的に集めているわけではない。したがって近代以前のものや,近代以後についても社会労働問題や社会労働運動史について取り扱っていないものは原則として所蔵されていない。とはいえ『神奈川県史』『新潟県史』『長野県史』『福井県史』『静岡県史』『岡山県史』のように,最近の県史は社会問題・社会運動の記述にスペースを多くさき,当研究所の所蔵史料が利用される例が増えてきているためにまとまって収蔵されることが多い。
市町村史については『横浜市史』『尼崎市史』のような大部のものもあるが,『北見市史』『川口市史』『宇治市史』『豊島区史』『中野区史』『盛岡市史』など社会運動に目配りした特色のある自治体史は所蔵されている。なお,都道府県の警察史はほぼ全府県にわたって収集されている。
公的機関が社会運動史・労働運動史を刊行する例はかなりあるが,そのようなものはしっかりとそろっている。戦後間もない頃に刊行された『山梨労働運動史』,内容の豊かさで評価されている『青森県労働運動史』のほか『福井県労働運動史』『広島県労働運動史』『三重県労働運動史』などがそれである。農地史・農地改革史も公的機関によって刊行されているが,これも多い。『北海道農地改革史』『新潟県農地改革史』『愛知県農地史』などがある。以上のものは戦前からの運動史を記述したものであるが,戦後労働運動史を含めると一層多くの文献が出されている。『資料愛媛労働運動史』のほか,北海道,岩手,福島,秋田や鹿児島,大分などの九州地方の各県によって刊行された労働運動史がそれぞれある。
つづいて,民間で刊行された文献についてみよう。山川出版社の『百年』シリーズはそろいつつある。近著の『宮城県の百年』のように社会運動史に目配りした著作もある。また,清文堂の『宮城の研究』『高知の研究』『和歌山の研究』などの各県ごとの研究シリーズも同様である。都道府県の労働組合・農民組合機関の刊行した労働運動史もある。『室蘭地方労働運動史』や『静岡県労働運動史』『千葉県労働運動史』のほか『北海道農民組合五十年史』『大阪農民運動五十年史』などがそれである。これに属するものもまた,戦後中心の文献をあげると熊本,佐賀など大変多くある。『岩手・社会党の軌跡』のような社会党県本部,共産党の各県委員会などによって刊行されたものや,部落解放同盟・婦人運動団体などのさまざまな社会運動団体のものもかなり所蔵されている。
一般的地方史の文献はあまりないが,社会労働運動史・社会問題に関する著書はできる限り収集している。その全体をここで紹介するのは不可能であるが,『京都地方労働運動史』『兵庫県労働運動史』のような研究書はいうまでもなく,坂井由衛『岐阜県労農運動思い出話』,尾原輿吉『東三河豊橋地方社会運動前史』のような活動体験者の自伝的運動史もある。また,和歌山県や長野県では民間の個人や団体による社会運動史の研究が従来より進んでいるが,これらの文献もほぼあるといえよう。
(梅田俊英)
『大原社会問題研究所雑誌』No.494・495(2000年1・2月)、創立80周年記念号より
更新日:2014年12月22日