II 図書 2.労働問題関係図書
(3)労働組合運動史・争議史
研究所所蔵図書のうち,労働組合運動史・争議史に関するものは,その収集にとくに力を入れている。この分野の図書は非売品が多いため,刊行されたという情報を得て原物を入手するのも重要な仕事となる。幸いにも,直接に寄贈して下さる組合や個人の方も多く,今日ではかなりの量のまとまったコレクションとなっている。冊数でいえば現在,約2,500冊である。そうした所蔵図書について,具体的かつ詳細に紹介するのはむずかしい。詳しくは,「労働組合史・労働争議・闘争記録所蔵目録」(所収,大原社研『資料室報』Nos.219~220,225,233,243,255,283,295,318,332)を参照されたい。ここでは,このコレクションの全体的特徴について記し,のち若干の所蔵分について,例示的に紹介することにしよう。
第一に,そのほとんどが第二次大戦後に刊行されたものである。その中には戦前の運動史・争議史関係の図書もあるが,もともと刊行された出版物が少なく,したがって所蔵分も多くはない。もっとも,すでに復刻も出ているが,たとえば1927(昭和2)年の野田醤油争議に関しては,数点の復刻の元になる原本があるなど,戦前の争議に関して重要なまたは珍しい文献もいくつか所蔵されている。たとえば,1927(昭和2)年の長野県岡谷の山一林組における製糸女工の争議を記録した堀江三五郎編『岡谷製糸労働争議の真相』(1927年)や,浅原健三『鎔鉱炉の火は消えたり』(1930年)などを挙げておこう。
第二に,労働組合運動史関係の所蔵図書は,ナショナルセンターと単位産業別組合レベルのものだけでなく,単位労働組合レベルにまで及んでいることである。単産・単組レベルといっても,規模の大きいところでは,支部史など事業所レベルまでカバーされているところもある。
第三に,産業別ではほとんどの産業分野に及んでいる。現在の所蔵分のうち,日本の労働運動一般および地方労働運動史などを除き,産業分野別に分けると,およそつぎのようになる。1)鉱業140冊,2)建設30冊,3)金属530冊,4)化学120冊,5)繊維110冊,6)食品50冊,7)印刷・出版90冊,8)エネルギー40冊,9)運輸400冊,10)金融120冊,11)商業・サービス50冊,12)教育180冊,13)公務280冊,14)その他200冊。以上の冊数には,争議史関係の図書も含まれている。たとえば,1954(昭和29)年の近江絹糸争議に関していえば,約10点近くの図書がある。
第四に,労働運動史関係図書には,たとえば『資料北海道労働運動史』全7巻,『資料長野県労働運動史』全7巻などをはじめ,地方労働運動史関係の図書も含まれている。また地方史文献の中にも,社会・労働運動史に関する記述があるので,それらを含めて考えると,地方労働運動史についても,かなりの所蔵図書がある。
第五には,運動史・争議史とも,組合や争議団の手によるものだけでなく,個人の手によるものも含まれている。その中には,たとえば,日本の労働争議研究者として著名な村山重忠『日本労働争議史』(1946年)も含められる。以上が,全体的特徴であるが,つぎに例示的に若干の産業分野について見てみよう。まず金属産業であるが,鉄鋼関係では,『鉄鋼労連労働運動史』をはじめ,旧八幡製鉄および新日鉄,それもいくつかの工場別の組合史などに及んでいる。たとえば,新日鉄関係では,光,室蘭,広畑,名古屋,君津,八幡,堺などの組合史が収集されている。金属産業の組合史・争議史関係図書530冊のうち,単産レベルのものは約60冊であるが,その他は企業レベル,事業所レベルの組合史である。
つぎに運輸・通信産業を例にとると,ここでは郵政関係や民営化以前の電信電話,国鉄など640冊に達するが,当局側の編纂したもの,たとえば『郵政労働運動史』全24巻なども含め,金属産業とならんで冊数が多い。しかも,地方本部や支部の組合史にまで及んでいる。私鉄では,阪急,近鉄,南海などの大手私鉄のほか,北陸鉄道(石川),越後交通(新潟)などの地方の中小私鉄に及んでいる。
以上は,国内の和書についてである。なお,外国の労働運動史に関するもののうち,日本語(翻訳を含む)文献を取り上げておくと,約300冊になる。地域別には,アジア30冊,ヨーロッパ100冊,アメリカ大陸ほか50冊,その他国際労働運動などである。
(早川征一郎)
『大原社会問題研究所雑誌』No.494・495(2000年1・2月)、創立80周年記念号より
更新日:2014年12月22日