IV 定期刊行物 2.戦後の機関紙誌
(3)政党および政治諸団体機関紙誌(日本)
大原社研は,占領期の革新政党や社会運動団体に関する資料についても宝庫となっている。政党機関紙では,とくに日本社会党の機関紙が豊富である。日本社会党は1946年1月1日,中央機関紙として『日本社会新聞』を創刊した。この『日本社会新聞』は,46年9月28日付の第22号より『社会新聞』と改題され,さらに51年10月における党の分裂をへて同年11月30日付の第318号より『週刊社会新聞』と再改題され,52年1月28日の第325号まで発行されている。
この占領期の日本社会党の機関紙については,事実上これを継承した現在の社会民主党にも所蔵されていない。国立国会図書館の場合,過半の欠号があり,研究者より早急な収集が期待されていた。当研究所の場合も,当初は36号の欠号があったが,向坂文庫や鈴木茂三郎文庫を受け入れ,またプロジェクトを組んで収集に努めた結果,現在ではバックナンバーのほとんどを所蔵している。なお,占領期の社会党機関紙については,当研究所の事業活動の一つである“復刻シリーズ・戦後社会運動資料”に含め,近年のうち完全復刻をめざして準備を行っている。
日本社会党が1951年10月に左右両党に分裂したのち,左派社会党は同年11月1日に機関紙として『党活動資料』を創刊した。この『党活動資料』は,52年3月10日付の第13号から『党活動』と改題され,55年10月,同党の統一回復にともなって55年10月13日の第129号より『社会新報』となったが,『社会新報』を含め,研究所ではこれらの機関紙も完全に揃えている。他方,右派社会党は1951年10月,それまで党出版部が出していた『社会週報』を機関紙とすることを決め,翌11月の第352号より『日本社会新聞』と改題し,60年10月17日の第796・797合併号まで発行した。このうち『社会週報』は,1948年1月1日に創刊された『日本社会党党報』を継承し,同年12月22日付の第48号から改題したものである。研究所では,これら右派社会党の新聞についても所蔵している。
このほか研究所には,1952年3月1日,左派社会党と総評が中心となって発行した『社会タイムス』(のち『週刊社会タイムス』)も所蔵されている。左派社会党は,同紙を準機関紙と位置づけ,憲法擁護・基地反対など平和と民主主義の世論をもり上げた。『社会タイムス』は,1950年代前半期における左派社会党と総評時代の社会運動を研究する際の基本文献となっている。
また,中央機関誌についても,最初の『社会思潮』(1947年2月創刊)や1957年5月創刊の『月刊社会党』(1957年5月創刊)も完全に揃っている。前者の『社会思潮』は,1991年10月に研究所編で,法政大学出版局より復刻出版された。このほかの機関誌として『情報通信』『社会通信』などの党報類,さらに『地方政治』『政策資料』『労働政策』『労働情報』『若い仲間』など,政策・運動誌が発行されているが,当研究所には派閥関係の機関紙誌を含め,社会党関係の文献は多い。ただし,これらの機関紙誌は,向坂文庫や,現在整理中の鈴木茂三郎文庫などに分かれて入っているので,閲覧サービスは迅速にいかないかもしれない。
日本社会党に関係する団体の機関紙誌としてとくに重要なのは,1946年1月25日に設立された社会主義政治経済研究所のそれであろう。所長は鈴木茂三郎であった。同研究所は,日本社会党のシンクタンクとしての位置にあり,機関紙として『政治経済通信』,理論誌として『社会主義』を発行している。このうち『政治経済通信』は,のち『社会主義政経週報』『週刊社会主義』『政経週報』『政経通信』と改題を重ねたが,片山・芦田内閣期における社会党サイドの経済政策を分析する場合,これらは不可欠の基本文献となっている。これらの社会主義政治経済研究所の機関紙については,機関誌『社会主義』を含め,すでに復刻済みである。
このほか,当研究所には,山川均・向坂逸郎が指導する戦前以来の伝統を継承した『前進』や,社会主義協会の機関紙『社会主義ニュース』と理論誌『社会主義』,さらに社会主義協会再建準備会の『社会主義』,向坂派社会主義協会の『旬刊進路』などもある。
日本共産党に関する機関紙誌も豊富である。おそらく日本では,日本共産党の党史資料室を除き,当研究所が,所蔵タイトル・量では最大であろう。合法再建をとげた日本共産党は,1945年10月20日に『赤旗』(セッキ)を復刊し,翌46年1月より『アカハタ』に改題し,1950年の分裂時における休刊があったものの,その発行は久しく現在に続いている。当研究所では,この間に発行された『赤旗』『アカハタ』や理論誌『前衛』(1946年2月15日創刊)をはじめ,占領期の『労働者』『働く農民』『新しい世界』『調査時報』『アカハタウィークリー』『大衆クラブ』『科学と技術』や,近年の『世界政治資料』『平和と社会主義の諸問題』『議会と自治体』などを含め,そのほとんどを所蔵している。なお,当研究所が所蔵する『赤旗』の再刊第1号は,梨木作次郎氏より寄贈を受けたものである。また,研究所には東京,埼玉,神奈川,長野など地方委員会の機関紙も所蔵してある。
ところで,研究所所蔵の日本共産党の逐次刊行物でとくに注目されるのは,1950年6月以降,55年7月の六全協で極左冒険主義を自己批判するまでの,半非合法・分裂抗争期の新聞・雑誌を所蔵していることである。1950年6月26日,GHQは『アカハタ』の発行停止を命令した。日本共産党は,その後継紙として『自由』『平和の友』『新文化』『民主日本』『人民新聞』『平和にっぽん』などをタイトルを変えて相次いで発行している。これらの新聞は,一般に“地下紙”“半非合法紙”などと呼ばれているが,他の学術機関にはほとんど所蔵されていない。雑誌でも,『党活動指針』『党建設者』『球根栽培法』『平和と独立のために』『内外評論』『国民評論』などがあり,現在整理中である。
1948年12月2日,黒田寿男・岡田春夫ら日本社会党の最左派のグループは芦田均内閣の予算案に反対し,脱党のうえ労働者農民党を結成した。研究所には,この労働者農民党の機関紙『労農新聞』『党報』『労農週報』をはじめ,政策調査部の『政策速報』『政策資料』などがある。労働者農民党は1957年1月,解党のうえ日本社会党に合流している。これらの機関紙誌は,国会図書館はじめ他の学術機関にも所蔵されておらず,現在のところ当研究所にあるだけである。
また,日本社会党の左派のうち,黒田寿男らと行動を共にせず,党内に残った和田敏明・足立梅市らは社会党再建全国連絡会を結成し,社会党の純化・統一回復に努めた。同連絡会は機関紙『社会主義新聞』を発行し,55年9月まで左派社会党に近い立場で活動したが,研究所では,何号か欠号があるものの,この『社会主義新聞』も所蔵している。
1960年1月24日,日米安保条約の締結を肯定する日本社会党の右派は,西尾末広を中心に脱党し,民社党を結成した。この民社党の機関紙・誌もよくそろっている。民社党の機関紙の場合,その系譜は『旬間社会新聞』『週刊社会新聞』『民社新聞』『週刊民社』とつづくが,欠号はない。機関誌も,『民社社会主義研究』『改革者』『民社党』『革新』『かくしん』『kakushin』とつづき,これらも揃っている。
このほか,民社党関係のものとしては,『民主社会党通信』『情宣ニュース』『民社党情報』『政策と討論』など,解党するまでの全タイトルを所蔵している。なお,民社党の思想・理論・政策を準備したのは,1951年12月12日に発足した八木秀次・蝋山政道らの民主社会主義連盟であった。連盟は1953年1月,機関誌として『民主社会主義』を創刊したが,研究所にはこの『民主社会主義』その他も所蔵している。
以上に紹介した政党の機関紙・誌以外にも,研究所には,社会民主党・協同党の『独立』や社会民主連合の『社民連』『社民連リポート』,最近のものでは新社会党『週刊新社会』なども収集している。
研究所では,その他の政治団体・新左翼の機関紙誌についても意識的に収集している。例えば,日本青年共産同盟『青年の旗』(のち『青年ノ旗』),日本社会主義青年同盟『社青同』(のち『青年の声』),社青同解放派『解放』,日本共産党(日本のこえ)『日本のこえ』『平和と社会主義』,日本共産党(左派)中央委員会『革命戦士』,日本革命的共産主義者同盟『世界革命』(のち『かけはし』),共産主義者同盟(戦旗派)『戦旗』,日本共産主義青年同盟(行動派)『青年戦士』,統一社会主義同盟『先駆』(のち『平和と社会主義』),日本共産党レーニン主義者団『建設者』など,50タイトルに及んでいる。
(吉田健二)
『大原社会問題研究所雑誌』No.494・495(2000年1・2月)、創立80周年記念号より
更新日:2014年12月22日