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III 文庫 2.向坂文庫

(4)堺利彦旧蔵書と「大逆文庫」

 向坂文庫は,明治・大正・昭和戦前期における日本の社会・労働運動に関する文献の宝庫といってよい。なかでも注目されるのは,平民社の創設者・堺利彦の旧蔵書である。この堺旧蔵書は1933年(昭和8)1月23日に堺が死去したのち,山川均・荒畑寒村らの仲介で向坂の自宅に移され,1965(昭和40)年に川口武彦氏ら社会主義協会幹部の尽力で近藤真柄氏(堺利彦長女)より正式に買い受けたものである。

 堺利彦旧蔵書については,向坂自身,『読書は喜び』(前出)で言及している。川口武彦氏も「『向坂文庫目録』第1冊の出版・堺利彦文庫のことにふれて」と題して,雑誌『社会主義』第348号(1993年2月)で紹介している。

 この堺利彦旧蔵の文庫は,向坂自身,転居を重ね,また貸し出し・閲覧などによって分散・移動してしまい,現在では一括してまとまっていない。しかし堺旧蔵書には「T.Sakai」の署名や,「彦」「枯川」「堺」「堺利彦印」「堺利彦」などの所蔵印が押されており,容易に判定できる。

 堺利彦旧蔵書の中心は,洋書と,幸徳秋水・堺利彦ら平民社のメンバーをはじめ初期社会主義者が編集・発行した『平民新聞』など明治・大正期の新聞である。前者では『資本論』『価値・価格及び利潤』などマルクスの経済学関係著作の英訳本や,エンゲルス,レーニン,トロツキーらの著作,シンクレアの文学作品,評論などがある。和書では暁民会や水曜会のパンフレット類が目立つ程度で,数としてはそう多くない。ただ堺旧蔵書には堺自身の研究ノートや,1925年に片山潜が中国で執筆した未発表の原稿『在露三年』などもある。『在露三年』は,自伝『わが回想』(原本はモスクワのマルクス・レーニン主義研究所に所蔵されている)の事実上の続編で,堺が補正加筆を試みて保管していたものであった。

 さらに,堺利彦旧蔵書には「大逆文庫」も含まれている。1911年(明治44)1月,桂太郎内閣は幸徳秋水・大石誠之助ら社会主義者12人を明治天皇の暗殺を計画したという虚構の容疑で処刑した。いわゆる「大逆事件」である。堺は,幸徳らが処刑された後,彼らが持つ蔵書や新聞を譲り受け,時の権力への怒りと抗議の意を込めて「大逆文庫」と命名し,売文社において大事に保管していた。この「大逆文庫」の図書・新聞類には,縦4.2cm×横1.7cmの朱印で「大逆文庫」と捺印されている。この「大逆文庫」も洋書が中心で,和書は河上肇『社会主義評論』(1906年)などがあるが,多くはない。いずれにしても,堺利彦旧蔵書と「大逆文庫」は,日本における初期社会主義者の思想と運動の研究において第一級の史料といえよう。

(吉田健二)

『大原社会問題研究所雑誌』No.494・495(2000年1・2月)、創立80周年記念号より

更新日:2014年12月22日

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