法政大学大原社会問題研究所 オイサー・オルグ  OISR.ORG 総合案内

文字の大きさ

  • 標準
  • 拡大

背景色を変える

  • 白
  • 黒
  • 青
ホーム   >   研究所案内   >   当研究所の所蔵資料   >   所蔵図書・資料の紹介   >   III 文庫 2.向坂文庫

III 文庫 2.向坂文庫

(2)洋書と洋新聞・雑誌

 向坂文庫の最大の特徴は洋書である。洋書は約1万タイトル,洋新聞・洋雑誌は593タイトルに及んでいる。研究所では寄贈を受けた後7年余の歳月をかけて整理・分類を行い,補修なども試みて,1994年3月に『向坂文庫目録Ⅲ(外国語図書)』を刊行した。また1995年10月に『向坂文庫目録Ⅳ(逐次刊行物)』を刊行し,洋新聞と洋雑誌のタイトルを収めた。向坂文庫の個々の洋書および洋新聞・雑誌について,詳しくはこれらの目録をご覧になって頂きたい。

 さて,洋書は,独,英,旧ソ連,米,中,ロシアなど各国にわたっていて,そのジャンルも和書と同様に経済学,政治学,哲学,社会思想,歴史学,社会学,文学とじつに幅広い。とはいえ,その大部分はドイツ語の文献である。

 このドイツ語の文献で何よりも注目されるのは,向坂が1922年~24年のドイツ留学中にベルリンの古書籍商フーゴ・シュトライザントの店から購入したマルクス主義関係の文献であろう。向坂は留学中,二日とおかずシュトライザントの店に通い,第1次世界大戦後の猛烈なインフレの中,「戦勝国」日本の通貨の力もあって,マルクス,エンゲルス,レーニンの著書を中心に,ルーゲ,ラッサール,プルードン,カウツキー,ヒルファーディング,ローザ・ルクセンブルク,プレハーノフ,メーリング,ベーベル,リープクネヒト親子など革命家の文献を購入した。このとき大原社研の森戸辰男研究員もドイツに留学中で,研究所のため社会主義文献を買い求めていたのである。向坂はこれ以来,60数年にわたってマルクス主義文献を系統的に収集してきた。

 なお,二村一夫氏の調査によれば,洋書はドイツ語文献が全体の90%を占め,中でもマルクス主義を中心とした社会科学書が5807冊でもっとも多い。次いで歴史書が1966冊,哲学宗教書が843冊,文学書561冊となっている。著者別で見た場合,マルクスの著書(エンゲルスとの共著も含む)が397冊と一番多く,次いでレーニンの277冊である。なお,エンゲルスの著書は99冊,カウツキー93冊,スターリン72冊となっている。詳しくは二村前掲稿を参照されたい。

 洋書の中で文句なしに稀覯書としてあげられるのは,マルクス自身のあの独特な筆致で欄外に書き込みを行っている『資本論』第1巻の初版本と,ダーウィン著『種の起源』と同じ1859年に発行され,世界に三冊しかない『経済学批判』の初版本であろう。このうち『資本論』初版本は,じつは当研究所にもマルクスが友人のクーゲルマン博士に献呈した世界で唯一のサイン入りのものがある。しかしマルクスの書き込みがある『資本論』は他になく,まことに貴重なものである。

 向坂文庫には,このマルクスと生涯行動を共にした,エンゲルスの著作のほとんどが揃っている。1928(昭和3)年6月,世界で最初に刊行をみた『マルクス・エンゲルス全集』の底本となった諸文献は,向坂が自ら集めたものであった。ついでに紹介すると,向坂文庫にはマルクスの『資本論』とエンゲルスの『共産党宣言』など主要文献に関しては,ドイツ語はもちろん,英,仏,露,中の各国語版も揃っている。

 洋書は19~20世紀の文献が中心である。だが18世紀に出版された文献も,例えばズュースミルヒの『神の秩序』(1741年)など,6冊ほどある。19世紀中に発行されたものは全部で646冊ほどあるが,編集者のデナーがマルクスを高く評価し,マルクス自身多くの項目の執筆を担当した辞典『ニューアメリカン・エンサイクロペディア』は,稀覯書の部類に入るだろう。

 社会主義政党関係文献では,ドイツ社会民主党とドイツ共産党の出版物が多く,大会記録,議事録などがある。国際社会主義運動でも,1864年に結成された第一インターナショナルの規約,同総務局の『議事録』(英語版4冊)をはじめ,第二,第三インターナショナル関係のものも多い。当研究所にも,ドイツ社会民主党関係で150冊,共産党関係で490冊,さらに第一,第二インター関係で90冊,コミンテルン関係で170冊余の文献があるが,これに向坂文庫の関連文献が加わった結果,当研究所は,大内力氏の言葉を借りれば,「社会主義文献の世界的宝庫」となっているのである。

 20世紀に入ってからの文献では,第二インターナショナルを理論的に指導したカウツキーの著書が『プロレタリアートの独裁』(1918年)をはじめ93冊ほどあり,さらにレーニン,クロポトキン,トロッキー,プレハーノフ,バクーニン,スターリンなどロシア革命の舞台に登場する人物や,ロシア革命史に関係する文献も多い。このほか,向坂文庫には,1789年のフランス革命と1871年のパリ・コミューンを中心とするフランス近代史や社会思想に関する文献も少なくない。

 社会主義以外の文献をあげると,経済学関係ではスミス,マルサス,リカード,ミルらイギリス古典学派の文献(和書でもほぼすべての著書がある)や,ドイツ歴史学派のリスト,ワグナー,ゾンバルトらの文献も多い。哲学・思想関係では,イギリス自由主義者のロックに関する文献もあるが,カントやヘーゲルなどのドイツ観念論哲学やディドロ,ヴォルテール,グランベールなどフランス啓蒙主義者のものも目立つ。

 洋新聞についても紹介しておこう。向坂文庫の洋新聞は,和新聞とくらべてタイトルとしては少ないが,稀覯紙ばかりである。洋新聞は洋書と同様に,ドイツ関係が中心である。また時期的に見た場合,1910~20年代の新聞が中心となっている。なお,稀覯紙のうち19世紀の新聞については,1843年にルーゲがマルクスの協力のもとにヘーゲル左派の機関紙として創刊した『独仏年誌』,1848年ドイツ3月革命期にケルンで発刊した『新ライン新聞』,1876年に発刊されたドイツ社会民主党機関紙『フォールヴェルツ』(『前進』),ビスマルクのドイツ社会民主党弾圧後,エンゲルスが亡命中のスイスとロンドンで発行した非合法新聞『ゾツィアルデモクラート』(1881年)などを例示的にあげておこう。
 洋雑誌についても貴重なものが多い。一例として,カウツキーが編集にあたったドイツ社会民主党機関誌『ノイエ・ツァイト』(1883年),ドイツ共産党機関誌『インテルナツィオナーレ』(1915年)はじめ,ルーゲらヘーゲル左派の機関誌『ドイツ学問芸術のためのハレ年報』(のち『ドイツ年報』と改題),さらに『ニューロシア』(1922年),『レーバーヘラルド』(1934年)などをあげておこう。これらの雑誌も,他ではなかなか見られないものである。

(吉田健二)

『大原社会問題研究所雑誌』No.494・495(2000年1・2月)、創立80周年記念号より

更新日:2014年12月22日

ページトップへ