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大原社会問題研究所雑誌全12巻 日本経済評論社刊

刊行にあたって

早川征一郎[法政大学大原社会問題研究所所長]

 大原社会間題研究所の戦前期の雑誌『大原社会問題研究所雑誌』が、この度、日本経済評論社から復刻刊行されることになった。最初に、出版事情厳しい折、復刻を引き受けていただいた日本経済評論社に、感謝の意を表明したい。それほど、この復刻刊行は至難だと思われていたからである。  大原社会問題研究所は、一九一九(大正八)年に創立されて以来、一九二三年八月から一九三六年八月まで、学術雑誌『大原社会問題研究所雑誌』を発行してきた。  この雑誌は、今から見ると、社会問題研究の発表の場に限定されたものではなく、ある意味では、社会科学研究雑誌といったほうがふさわしいほど、カバーする論題の範囲は広い。執筆者も新進気鋭の研究者が多数、名を連ねており、当時としては最高水準の学術雑誌でもあった。大原社会問題研究所は、『日本労働年鑑』の刊行の継続でも名を知られているが、この雑誌をつうじてこそ、広い意味で、マルクス経済学研究のメッカとして、戦前、名を馳せてきた。  雑誌の内容は、今日流にいえば経済原論分野における優れた貴重な研究論文、日本資本主義論争と関わった論争的論文、そして労働者状態や生活に関する調査研究論文・報告などをはじめ、きわめて多様で、しかも当時としては水準の高い先駆的研究の成果が掲載されている。  このような雑誌を研究所創立八十周年・法政大学合併五十周年記念事業の一環として、ここに復刻刊行することは、戦前期の社会科学研究を再検討する今日の足がかりともなるであろう。

推薦の言葉

大内 力[日本学士院会員][東京大学名誉教授]

 『大原社会問題研究所雑誌』は大正から昭和初期にかけて、経済学や社会問題の分野で最高の水準を誇る学術雑誌であった。経済学の分野ではマルクス経済学に属する論考に中心があったが、それらは日本共産党系の、多分に教条主義的なソ連製の輸入理論に対抗して、独自の理論の展開を目指しており、第二次大戦後に全面的に開花した。そして欧米諸国からも注目され評価されるようになった日本独特のマルクス経済学の研究に礎石を据える役割を果たした労作であった。もちろん今日の研究水準からいえば、不十分な点や誤った点はいくらでもありうる。しかし他面、今日でもさらに検討を深め発展を図るに値する古典的価値をもつ論考も多数含まれている。  しかし今日からみて貴重なのは、当時の社会問題にかんする、さまざまの実態調査の報告であろう。ここでも研究史上先駆的な意味をもつものが多いが、いずれにせよそれらは日本の社会問題、労働問題、農民問題の研究者が、今日でも必ず依拠しなければならない調査といっていい。  こういう意味でこの復刻は、学界に大きな刺激を与えることになるであろう。

 

大谷禎之介[法政大学経済学部教授]

 大原孫三郎は、一九一八(大正七)年の米騒動を見て、貧困などの社会問題の根源を学問的に突き止める必要を感じ、翌年に大原社会間題研究所を発足させて彼の倉敷紡績から年々巨額の醸出を続けたが、人事にも運営にも容喙しなかった。その結果、研究所には、高野岩三郎をはじめ、東京帝国大学から飛び出したり追い出されたりした社会主義者や民主主義者を中心に多くの反体制的な社会科学者が集り、自由な研究を続けることができた。大原の寄付が、倉敷紡績の経営上の困難と軍国主義化の進展による社会科学研究への圧迫との両面から停止に追い込まれた一九三六(昭和一一)年までの一四年間、大正デモクラシーから昭和恐慌を経て軍国主義国家の確立にいたるこの時期にあって、『雑誌』は、マルクス主義者、マルクス研究者を含む当時の錚々たる研究者たちの注目すべき論文・翻訳・調査を掲載し続けた。常連は、高野のほか、櫛田民蔵、森戸辰男、久留聞鮫造、細川嘉六、大内兵衛、権田保之助、内藤赳夫などであった。櫛田民蔵の、方法論・価値論・地代論・貨幣論などに関する多くの論説も、久留間鮫造の透徹した時代把握を示した恐慌論研究もこの『雑誌』で発表されたものである。各論者のこれらの論説のなかには、のちに著書としてまとめられたものもあるが、それはごく一部にすぎない。  戦前の大原社研の調査活動の基軸であった『日本労働年鑑』にたいしてその研究活動の基軸であった『雑誌』が復刻されることの意義はきわめて大きい。広く全国の大学、図書館、研究所などの書架に置かれて、当時の大原社研の活動とそこでの研究業績が多くの読者にさまざまの視点から再検討され、再評価されることを期待している。

『大原社会問題研究所雑誌』の意義

吉田健二[法政大学大原社会間題研究所研究員]

 大原社会問題研究所は、米騒動の翌年の一九一九(大正八)年二月、岡山県倉敷市の実業家・大原孫三郎により、日本で最初の社会問題に関する専門研究所として設立された。そして、一九四九年に法政大学と合併して付置研究所となり、昨年で創立八十周年を迎えた。研究所では、これを記念する事業として、日本経済評論社の協力を得て、戦前期の学術誌『大原社会問題研究所雑誌』(一九二三年八月-一九三六年八月)を復刻することにし、この間、準備を重ねてきた。  戦前期の大原社研は、日本における「高等学術研究所」として機能していた。櫛田民蔵、久留聞鮫造、権田保之助、森戸辰男、大内兵衛、細川嘉六らが、のちに宇野弘蔵や笠信太郎らの新進も、高野岩三郎所長のもとに集い、経済学や社会問題の研究に取り組んだ。   とくにマルクス経済学の理論研究では、最先端にあり、櫛田民蔵「マルクス価値概念に関する一考察」(第三巻一号)、久留間鮫造「恐慌研究序論」(第六巻一号)などの不朽の論孜が発表され、『大原社会問題研究所雑誌』は、日本におけるマルクス経済学の最高峰の論壇となっていた。  それだけではない。『大原社会間題研究所雑誌』は、日本資本主義論争にも参加し、労農派の理論構築の一拠点となっていた。日本資本主義論争の争点の一つは、地主的土地所有の本質規定、すなわち高率小作料をめぐってのものであった。櫛田民蔵は「わが国小作料の特質について」(第八巻一号)を発表し、その小作料は、近代的な資本主義地代で、農民の土地緊縛など経済外強制も存在しないと分析し、野呂栄太郎ら封建地代とする講座派の見解を批判した。このように、戦前期の『大原社会問題研究所雑誌』は、アカデミックな論争の場となっていた。  ところで、戦前期の大原社研の研究活動を特徴づけるのは、研究員が自らの学問関心で取り組んだ個人研究の先駆性にあるだろう。  櫛田、久留間、大内らのマルクス経済学研究については先に述べた。ほかに、森戸辰男の社会民主主義や女性労働問題の研究、細川嘉六の帝国主義や米騒動の研究、笠信太郎のインフレーション研究、高田慎吾の児童・私生児に関する研究、大林宗嗣の内職副業調査や女給生活に関する研究、権田保之助の娯楽研究などをあげておこう。  これら各研究員の研究・調査は、いずれも『大原社会問題研究所雑誌』を通じて発表され、その先駆的で、フィールドワーク重視にもとづく実態分析と論点の提示は各界で注目された。とくに、「社会生活における娯楽の一考察」(第二巻一号)から始まった権田保之助の娯楽研究は、「娯楽地『浅草』の研究」(第七巻一号)、「農村娯楽問題考察の基底」(第十巻一号)など、事例領域を拡げ、日本における娯楽研究の創始者となっている。  さらに、森戸辰男自身、日本における女性学研究の草分けの存在であった。社会政策学会が創立されて本年で一〇四年が経つ。一九一八(大正七)年一二月、社会政策学会の第十二回大会は「婦人労働問題」をテーマに開かれ、森戸と河田嗣郎がメインの報告を行った。二人は、翌年に大原社研の研究員となっている。とくに森戸は精力的に女性学の研究にも取り組み、「日本における女子の職業的活動」(第七巻三号)、「婦人労働の推進力」(第九巻一号)など、女性労働問題の研究で健筆をふるった。大原社研それ自体、日本における女性学の先駆的研究機関であったのである。  さて、私は内々の企画とはいえ、戦前期の『大原社会問題研究所雑誌』の復刻を心から喜んでいる。なぜなら、現代社会における問題関心や視点において、私どもの雑誌が学問研究に対するセンスを含め、改めて歴史的な評価が下されるだろうからである。  戦時中と戦後の一時期に中断があるものの、現在なおつづく『大原社会問題研究所雑誌』の発展は、これら先輩研究員の業績の批判的な検討をへて、確固となるにちがいない。(解題者)

配本予定大原社会問題研究所雑誌

第1回配本  2000年5月
1巻  第1巻第1号(大正12年8月)~第2巻第1号(大正13年4月)
2巻  第2巻第2号(大正13年12月)~第3巻第1号(大正14年1月)
3巻  第3巻第2号(大正14年4月)~第4巻第1号(大正15年3月)
第2回配本  2000年7月
4巻  第5巻第1号(昭和2年3月)~第6巻第1号(昭和4年9月)
5巻  第7巻第1号(昭和5年3月)~第7巻第2号(昭和5年9月)
6巻  第7巻第3号(昭和5年12月)~第8巻第1号(昭和6年6月)
第3回配本  2000年9月
7巻  第8巻第2号(昭和6年9月)~第9巻第2号(昭和7年10月)
8巻  第10巻第1号(昭和8年3月)~第10巻第3号(昭和8年11月)

月刊大原社会問題研究所雑誌

第4回配本  2000年11月
9巻  第1巻第1号(昭和9年7月)~第1巻第6号(昭和9年12月)
10巻 第2巻第1号(昭和10年1月)~第2巻第6号(昭和10年6月)
第5回配本  2001年1月
11巻 第2巻第7号(昭和10年7月)~第2巻第12号(昭和10年12月)
12巻 第3巻第1号(昭和11年1月)~第3巻第8号(昭和11年8月)

体裁 菊判上製
各冊平均600頁
定価 全12巻揃価(本体240,000円+税)
各巻 (本体20,000円+税)

お問い合わせ先
日本経済評論社
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町3-2
TEL 03-3230-1661 FAX03-3265-2993
日本経済評論社のページ

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