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協調会資料第1集解題

■マイクロフィルム版の前書き刊行のことば

 このたび、柏書房から刊行される『日本社会労働運動資料集成』は、現在、法政大学大原社会問題研究所が所蔵する膨大な協調会史料の一部である。大原社会問題研究所の復刻刊行としては、創立50周年を期して開始された『日本社会運動史料』(法政大学出版局)が、すでに世に知られている。その復刻は、現在まで実に206冊にのぼっている。この復刻シリーズは、いわば復刻というかたちでの研究所の情報公開であり、大原社会問題研究所と研究者、利用者の時間的空間的距離を縮めるものとして、きわめて有益であると考えている。

 今回の協調会史料の刊行も、目的・性格としては『日本社会運動史料』と同じである。異なるのは、復刻史料の由来である。『日本社会運動史料』は、もともと大原社会問題研究所が収集し、所蔵していた史料を中心に復刻されてきた。今回の刊行は、大原社会問題研究所とは全く別の機関であった協調会の史料の刊行である。

 協調会は、大原社会問題研究所が創立されたのと同じ年、1919(大正8)年に、政府・財界が出資し、労使協調を目的として設立された民間機関である。その事業内容としては、(1)社会政策・内外社会運動の調査・研究とその発表、(2)社会政策・社会立法に関する政府の諮問に応じ、意見を提出、(3)学校・講習会・講演会・図書館などの設置、開催、(4)労働者の教育、福利増進施設の設置、(5)労働争議の仲裁・和解などを行い、もって協調的労使関係の普及に力を入れた。

 そうした活動のうち、社会・労働関係の調査・研究は、たとえば、月刊『社会政策時報』、『労働年鑑』、『最近の社会運動』、各種の調査報告などとして刊行された。だが、協調会のそうした成果の基礎には、社会・労働運動の実態動向把握という活動があった。とりわけ、協調会労働課・情報課を中心とした労働組合、労働争議、無産政党、社会運動の実態把握のための調査、資料収集および内務省・警察から提供される情報・連絡の記録類が加えられ、年鑑や調査報告の記述の基礎になった。それらが、膨大な資料として蓄積されたのである。

 今回、刊行される『日本社会労働運動資料集成』は、そうした協調会史料である。大原社会問題研究所の協調会史料の公開計画のなかで、協調会研究会(高橋彦博・梅田俊英・横関至)が発足し、編集作業が行われた。編集にあたっては協調会保管史料全113リールに加え、冒頭のリールに、協調会の歴史、組織が分かる協調会自体の資料を収録した。この協調会史料が、社会的に有用なものとしてぜひ活用されることを願っている。最後になったが、この編集および刊行の過程で、柏書房、とりわけ出版部長の佐保勲氏、出版部の山崎孝泰氏には、ひとかたならぬお世話になった。記して謝意を表明したい。

 2000年9月
 法政大学大原社会問題研究所
 所長 早川征一郎

■本史料の主な内容

 膨大な協調会史料の核心部分を構成しているのが、協調会本部の労働課と情報課の保管にかかわる数百冊の資料ファイルである。それは、大型書棚数列に整然と並べて保管されていた内部資料であったことが、分類・整理された諸資料の製本状況からうかがえる。
 概算で5、000点、120、000頁を超えると把握できる労働課・情報課の内部保存資料を、114巻のリール65、605コマに収め、詳細な分類項目を付したのが本史料である。この史料が覆っている領域は、主に、労働組合、労働争議、無産政党、であるが、その内容は、組合本部の動向や大争議の記録や政党本部の大会決定などに限定されるものではない。単組レベルの動向と争議・紛議が記録され、労農政党と選挙・議会との関係把握も視野に収められている。対象地域も東京に偏ることなく、協調会大阪支所・福岡出張所などを拠点とする丹念な各地域の情報収集が試みられている。これらファイルの特徴は、協調会職員の手書き報告書を中心に、内務省・警察から提供される情報・連絡の記録類が加えられ、そこへ現場で収集されたビラなどが折り込まれるという、協調会が公刊する調査報告書や年鑑の記述の元となる、その意味における原資料のファイルとなっているところにある。
 協調会館が設立されたのは1921年である。その際、新設の大講堂を労働団体の集会場として提供することが協調会の事業目的として公にされた。それ以降、協調会館の大講堂が労働組合や農民組合、無産政党の大会会場として使用されるのが通例となった。そのような「地の利」を利用する形で、協調会職員は各種の大会の記録を採っている。そこでは、大会の議事進行状況だけでなく喧噪状態までが記録され、傍聴席から撒かれた伝単の類まで拾い集められている。こうしてまとめられた報告が本史料の柱となっている。協調会職員の報告は、内務省が『社会運動の状況』で見せる記述より詳しい内部的な記録となっているだけでなく、主催団体側発行の機関紙上の報告より客観的で臨場感あふれる報告となっている。
 なお、これらの資料の位置付けと協調会総体の把握のために、協調会清算人・添田敬一郎ほかによる『協調会誌(稿本)』と、1937年から1938年に掛けて16号が発行された協調会機関紙『協調』の全文を1巻のリールとして冒頭に収めた。この2点の基本資料によって、協調会の27年間の経過の総体的通史的把握が可能になるであろう。とくに、本資料類がカバーする時期を超えた、後期の協調会において浮上する産業報国会と協調会の関係が明らかになるであろう。 (高橋彦博)

■協調会とは

 第一次大戦を機会に内務省の内部に社会派が台頭し、社会局が外局として設置された。同時に発足したのが1919年の財団法人協調会である。政府・財界などからの寄付金約750万円を基金に運用された協調会組織の規模は、東京・芝の協調会館に本部を置いたほか、大阪、福岡に支所を設け、職員の数は約150を数えるという巨大なものであった。

 この協調会が1947年に解体されるまでに挙げた調査研究機関としての業績は、『労働年鑑』『社会政策時報』をはじめとする多様な出版物に示されているが、それだけではなく、国内外の労働・社会問題に関する「膨大」と言っても過言ではない量の調査記録・調査報告の資料として今日に残されている。

 協調会は、ともすると労資協調機関であったと理解されて終わりがちであるが、協調会が自らの職分を労働争議の調停に限定していることはなかった。また、協調会は、多くの場合に産業報国会の前身であったと位置付けられて終わっているが、協調会主流は内務省主導型産業報国会への巻き込まれを拒否しつづけたのが事実経過であった。第二次大戦後、最初に制定された労働組合法を強く推進したのは、解散に追いやられる直前の協調会であった。労資協調を求める前に労働組合を法的に承認せよ、とするのが協調会のαでありωであったのである。

 以下に協調会を論じた文献の一覧を掲げる。

「協調会論」文献一覧
〔総記〕
(1)『財団法人・協調会誌』(稿本)協調会解散事務所編、1948年。
(2)『協調会史-協調会三十年の歩み』協調会偕和会編、1965年。
(3)『協調会文庫目録(和書の部)』法政大学図書館、1977年。
(4)編集委員会編『添田敬一郎伝』添田敬一郎君記念会発行、1955年。
(5)編輯委員会編『吉田茂』吉田茂伝記刊行編輯委員会発行、1969年。
〔各論〕
(1)花香実「協調会の教育活動(その一)-日本社会教育史ノート-」『国学院大学栃木短期大学紀要』第3号、1969年1月。
(2)伊藤隆『昭和初期政治史研究』東京大学出版会、1969年。
(3)浜口晴彦「協調会と第一次大戦後の労資関係」『社会科学討究』第15巻3号、1970年3月。
(4)金原左門『大正期の政党と国民』塙書房、1973年。
(5)安田浩「政党政治体制下の労働政策-原内閣期における労働組合公認問題-」『歴史学研究』第420号、1975年5月。
(6)米川紀生「協調会の成立過程-我国に於ける労資関係安定のための民間機関の構想-」『経済学年報』(新潟大学)第3号、1979年2月。(社会政策学会第36回全国大会・報告「協調会の思想と行動」の一部)
(7)米川紀生「協調会の労働組会論」『新潟大学・経済論集』第26・27号、1978年-Ⅱ・1979年-Ⅰ。
(8)藤野豊「協調政策の推進-協調会による労働者の統合-」『近代日本の統合と抵抗(3)』鹿野政直ほか編、日本評論社、1982年。
(9)池田信『日本的協調主義の成立-社会政策思想史研究-』啓文社、1982年。
(10)林博史『近代日本国家の労働者統合』青木書店、1986年。
(11)三輪泰史『日本ファシッズムと労働運動』校倉書房、1988年。
(12)西成田豊『近代日本労資関係史の研究』東京大学出版会、1988年。
(13)塩田庄兵衛「解題」、協調会『最近の社会運動』(覆刻版)新興出版社、1989年。
(14)島田昌和「一九二〇年代後半における協調会の活動-争議調停活動の検討-」『経営論集』(明治大学経営学研究所)第36巻2号、1989年2月。
(15)島田昌和「協調会の設立と経営者の労働観-日本工業倶楽部信愛協会案をめぐって-」『経営史学』第24巻3号、1989年10月。
(16〉島田昌和「渋沢栄一の労使観と協調会」『渋沢研究』創刊号、1990年3月。
(17)安田浩「官僚と労働者問題-産業報国会体制論-」、東京大学社会科学研究所編『現代日本社会(4)-歴史的前提-』東京大学出版会、1991年。
(18)W.Dean Kinzley,Industrial Harmony in Modern Japan;the Invention of a Tradition,Routledge 1991.
(19)佐口和郎『日本における産業民主主義の前提-労使懇談制度から産業報國会へ-』東京大学出版会、1991年。
(20)安田浩「内務省・民政党・総同盟と労働政策」『日本近現代史(3)-現代社会への転形-』岩波書店、1993年。
(21)矢野達雄『近代日本の労働法と国家』成文堂、1993年。
(22)木下順「日本社会政策史の探究(上)-地方改良、修養団、協調会-」『国学院経済学』第44巻第1号、1995年11月。
(23)高橋彦博「協調会と大原社研」『社会労働研究』第42巻第3号、1995年12月。
(24)高橋彦博「『協調会誌』(稿本)と『協調会史』(正史)との間」『大原社会問題研究所雑誌」第445号、1995年12月。
(25)高橋彦博「新官僚・革新官僚と社会派官僚-協調会分析の一視点として-」『社会労働研究』第43巻第1・2号、1996年11月。
(26)高橋彦博「協調会コーポラティズムの構造」『大原社会問題研究所雑誌』第458号、1997年1月。
(27)高橋彦博「労働雑誌『人と人』の廃刊-戦間期日本における労働政治の試行-」『社会労働研究』第45巻第4号、1999年3月。

(高橋彦博)

更新日:2015年04月27日

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